ビロードの口づけ 獣の森編
「子どもたちに読み書きや計算を教える学校を作りましょう。それから、森の一部を開墾して農場を作りましょう」
以前ジンが話してくれた獣社会の根幹をなす唯一無二の掟、弱肉強食。
弱い者が生き残れない社会では、他人を蹴落とす事ばかり考えて、社会全体の発展はとても望めない。
弱い者に手をさしのべる思いやりの心を人は持っている。
父が獣に家族を奪われた者を援助しているように。
それが人社会の一番いいところだとクルミは考えた。
今の獣社会では、年寄りや弱い者は自然淘汰されているらしい。
「力の弱い者ほど頭を使うのが得意だとザキも言っていました。切り捨ててしまってはもったいないと思いませんか? 獣社会全体の底上げをするためにも、読み書きや計算ができる者が増えれば、人社会で働く者も増えます。森の中に農場があれば、人型になれない獣たちも働く事ができます。食料の安定供給にも繋がりますしね」
得意げな笑みを浮かべるクルミに、獣はガウッと一声吠えて飛びかかった。
身体の上にのしかかってペロペロと顔を舐める。
どうやらクルミの提案を気に入ってもらえたようだ。