ビロードの口づけ 獣の森編
壁の真ん中はアーチ状に穿たれ、門扉はない。
道はアーチをくぐって先へと伸びていた。
アーチをくぐったところでジンは立ち止まり、少し腰を落とした。
下りろと言う事だろう。
クルミは足をついて身体を起こした。
降り立った素足の裏に石畳がひんやりと冷たい。
クルミを下ろしたジンは立ち上がり、下半身が黒い毛に覆われた半人半獣の姿になった。
クルミを抱き上げて石畳の道を先へ進む。
ジンに抱かれてクルミは辺りを見回した。
アーチの内側には広い庭があった。
石畳の道を中心に両側は短い草がびっしりと生えている。
道の突き当たりには、石造りの堅牢な城が建っていた。
侯爵邸よりは大分こぢんまりとしているが、獣の住み処にきちんと手入れされた、こんな建物があるとは誰も思わないだろう。
「ここが獣王の城ですか?」
「あぁ」
見上げたクルミの唇に、ジンは軽く口づけた。