ビロードの口づけ 獣の森編
少しイタズラ心が芽生えた。
昨日飛び起きるほど驚かされたので、仕返しとして鼻先にチュッと口づけてみた。
案の定、黒い獣はビクリと身体を震わせ、飛び起きて頭をもたげた。
耳をピンと立てて辺りを見回す。
ふと目が合い、目の前で笑っているクルミに、からかわれた事を悟ったようだ。
目を細めて耳を後ろに倒し、グルルとうなった。
きまりの悪そうな様子がかわいくて、クルミは手を伸ばし獣の首を撫でた。
その手首に獣がカプリと噛みつく。
クルミにからかわれたのが、よほどおもしろくなかったらしい。
獣はクルミの手や腕を何度もカプカプと甘噛みした。
鋭い牙の先端が少し当たるが痛くはない。
むしろくすぐったくて、クルミは益々笑い転げた。
獣は一声うなってクルミの上にのしかかり、太い前足で両肩を押さえつけた。
そして獲物を捕捉したような正確さで、素早く首筋にカプリと噛みついた。
観念した獲物のように、クルミはピタリと動きを止めた。
ゆっくりと腕を回して獣を抱きしめる。
獣は噛みついた口を開き、首筋や耳をペロペロと舐め始めた。