ビロードの口づけ 獣の森編
「頭を冷やしてやったんだ。おまえはあの女の事になると動揺しすぎる。まずは状況を把握するのが先決だろう。まだ城外に出たかどうかも分からない。もし出たとしても人の女と交わったり食ったりするのは禁忌だ。あの女はおまえの印を持っている。いくら強烈な香りを発していても、獣王の印を持つ女がすぐに危険な目に遭っているとは考えにくい。まずはふれを出せ。獣王のおまえが闇雲に動くな」
正論だ。
二、三度目をしばたたいた後、ジンはザキから手を離し、ずれたメガネを外しながら目を背ける。
悔しい事に頭を冷やす効果はあったようだ。
背後からクスクスと笑いながら、ライが歩み寄ってきた。
上着の胸ポケットからハンカチを引き抜き、恭しくジンの目の前に差し出す。
「まさか君がザキにたしなめられる日が来るとはねぇ」
からかうようなライの笑顔をひと睨みして、ジンは奪い取るようにハンカチを受け取った。
それで顔を撫で、メガネを拭いてかけ直す。
ハンカチをライに投げ返した後、ジンはミユを振り返った。