ビロードの口づけ 獣の森編
「いつもお手洗いに行く時は奥様に断って、絶対にどこにも行かないように念を押して行くようにしています。さっきもそうしたら、奥様は笑って返事をなさいました。もう私には何が何だか……」
ミユは両手の平に顔を伏せて、フルフルと頭を振った。
横からライがミユの肩に手を乗せて顔をのぞき込む。
「大丈夫だよ。君に落ち度はなかった。ジンにも分かっているはずだから」
「ありがとうございます。でも奥様が心配で……」
「そうだね。みんなで早く見つけてあげよう」
顔を上げたミユに、ライは優しく微笑みかけた。
その笑顔に苛ついて、ジンは眉間にしわを刻む。
彼の悪いクセが出ている事が丸わかりだからだ。
そんなジンの心中を知ってか知らずか、ライは平然とミユにアピールする。
「ところで君、結月のパートナーはもう決まっているの? まだなら私なんてどうかな?」
「え?」