ビロードの口づけ 獣の森編
(7)
部屋の中を見渡してもミユの姿はどこにもない。
ジンは急いで出入り口の扉を開け、部屋の外を確認した。
ちょうど出くわした侍女に聞くと、部屋から出て行った者は誰もいないという。
不審者はおろかミユ本人さえも。
狐につままれたような気分で部屋に戻った時、ライが手招きをした。
「どうした?」
「何か聞こえないか?」
言われて耳をすます。
微かに壁を叩くような、くぐもった鈍い音がした。
部屋の一番奥から聞こえるようだ。
「壁の向こうからだ」
ジンはライと共に一番奥にある書棚に駆け寄った。
耳を近づけると、壁を叩く音と共にミユの声が聞こえた。