ビロードの口づけ 獣の森編


 ジンの思い通りに屈して、泣いてなんかやらない。

 一瞬ひるんだものの、獣は悠々とクルミの手を躱し、部屋の中を楽しそうに逃げ回る。
 ようやく寝間着の裾に手が届いたと思った時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。


「おはようございまーす!」


 元気な挨拶と共に、エプロンをつけた侍女が入ってきた。


「きゃあぁっ!」


 クルミは咄嗟に両肩を掴み、その場にしゃがみ込んで身を縮めた。
 クルミの悲鳴に侍女の方が驚いたらしい。
 焦った様子で身をかがめながらクルミをのぞき込む。


「どうなさいました? 奥様」
「ごめんなさい。私、こんな格好で……」

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