黒衣の天使
秘密



はらり、ひらり。

春の夜。

月明かりと、古びた街灯に照れされて闇の中を妖艶に浮かび上がる桜の華。

儚さと、どこか背筋をゾクリとさせる妖しさを持ったこの華があたしは好きだった。


「おい天音ぇ、こんなとこにいたのかよ。この間殴られたカリ返させてもらうから覚悟しな!!」


でもだめ。

全然だめ。

あたしの金髪にこの華は似合わない。


背後から聞こえた威勢のいい声に、花見を中断して振り返る。
あたしと同じ色の髪をした女が立っていた。



「ねぇ知ってる?桜がなんで美しいのか」

「あぁ?テメーなめてんのか?」

「知らないの?桜の木の下に死体が埋まっててその血を吸ってるから美しいんだ・って話」


ほら、だから人は

こんなにも桜に惹きつけられる


「あたしも桜になりたい」


ポツリと呟いて、再び桜を見上げた。
風に揺れて花びらが舞う。


「ふざけんなあああ!!!」


ザアッと音がしたと同時に女が殴りかかってきた。
振り返らなくても避けられる攻撃。
ひょい、とあたしが避けたせいで女が勢いのまま地面に転ぶ。


「ぐっ!?」

「悪いけど、あたしアンタの顔も名前も覚えてないんだ。じゃあね」


女が立ち上がるのを待つまでもなく、その場を後にしようとした時。


「…てよ…」


か細い声により強い憎しみが灯った。


「待てよこのやろおおおおお!!!」




ーーガンッ





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