モルフェウスの誘惑 ※SS追加しました。
***


美雨は結局、杜のいる雑居ビルに来ていた
ただ、中々、中に入る勇気が持てず
ビルの入り口でどうしたものかと、考えていた
その時ーーー


「入れば」


ぶっきらぼうな声に振り帰ると
杜が立っていた


「えっ、あ、あの…」


美雨が戸惑っていると


「この前は悪かった…」


消え入りそうな声で言うと
ビルの中に入っていく


美雨はにやける顔を見られないよう
必死に真面目な顔を作った


用があるからと、美登の事務所へと向かう杜と一緒に美雨もついていく


「やあ、美雨ちゃんいらっしゃい!」


と、相変わらず愛想のいい美登が出迎えた


「この前は、わざわざすいませんでした」


美雨の言葉に


「この前って?」


と、反応する杜


「ああ、この前ね。俺が美雨ちゃんデートに誘おうとわざわざバイト先にまで行ったのに見事に断られたんだよなぁ。ねっ?美雨ちゃん」


「え、ええ…まぁ…」


と、曖昧な返事する美雨


「ふうん」


とだけ言うと杜はデスクに座り
鞄から書類を出し整理し始めた


美雨がその光景を不思議そうに見ていると


「僕の仕事をね、杜にも手伝って貰ってるんだよ。こいつもまだ絵だけじゃ食ってけないしね。それにさ、イケメンの杜が別れ話を代理ですると大抵、すぐ片付く……ご、ごめん、その美雨ちゃんがどうとかじゃなくて…」


美登は咄嗟に口を塞ぐ


「大丈夫です。今となれば、むしろ良かったと思ってます。本当です…」


美雨は笑顔で美登に答えた
それは、本心だった










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