先輩~梨奈~

幸せ者

あたしは今、リュウヤ先輩の家の表札の前に立っている。
あぁ。
出てきたらどうしよう。

なんて、当たり前のことを考えていた。

ガチャッッ
誰か出てきた。

あっ。
先輩だぁ!!

ギュウ

「せっ、先輩。
 大好き」

そういって、あたしは先輩に抱きついた。

や、やっちゃった。
やべぇ。
恥ずかしすぎる。

顔を上げるとそこには…
真っ赤になった先輩の顔があった。

「俺もだ。
 馬鹿」

そう、甘く切ない声が聞こえたとほぼ同時くらいに、
……あたしの唇は、先輩に奪われた。

あ、あたしの。
だいじなファーストキスが。

「は、初めてのチューがぁっ」

こんな、簡単に?!
こんな、あっさりなもんなの?!

「お、お前、初めてだったのか?」

「当たり前じゃないですかぁ」

先輩、酷い…

「じゃあ、俺が初めてじゃ駄目だったって事か?」

先輩が切なく笑う。
どうして、そんな切ない顔するの?

「ちがっっ。
 先輩がファーストキスの相手で、すごく嬉しい。
 …です。
 でもでもでもぉっ、やっぱ心の準備とか」

乙女には色々あるのです!!
何で先輩にはそれがわからないのぉ?
ってまぁ、わかられても困るし、だけど。

なんとなく、理解はして欲しい。
せめて努力だけはしてほしい。
…と、思う。

我が儘だけど。
超身勝手なんだけど。

「そんなとこで抱き合ってもらっても困るんだけど」
あたしの無駄な思考は、その少し高く冷淡な声にかき消された。

「え…
 あ、リュウト。
 お…はよう」

「黙れ。
 このドアの前でいちゃつくな。
 バカップル」

五月蝿いなぁ。
なんなんだよぉ。
昨日は超良い奴だと思ったのに。

なんなんだ、この態度の変わりようは。
兄貴の前だからか?


パシャッ
そのとき何処からか、カメラのシャッター音と足音が聞こえた気がした。
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