続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】



破顔一笑ってのは こんな顔だろう

男の顔は 大げさでなく玲子さんとの再会を素直に喜ぶ顔だった



「5年ぶりかなぁ いや もう少したってるかもしれませんね 

お子さん達大きくなったでしょう」


「え えぇ 若林さんも元気そうね」



そばに来た男に軽く頭を下げ 何か言いたげな玲子さんを残して 

俺はその場を立ち去った

廊下を曲がる際に チラッと男に視線を走らせる


転勤したはずの男が どうしてここにいるんだ

出張か? ハッ!!

他工場から応援にきた技術屋の中に 若林と名前があったのを思い出した

確か課長だったような 円華と同じ歳なら それくらいの役職だろう

ガッシリしたヤツだな スポーツで鍛えてるんだろうか

去り際に 俺に返した礼も嫌味じゃなかった 

なかなかの男と見た 


円華 あんなヤツと付き合ってたのか

その日は 若林の名前を思い出すとモヤモヤと気分が曇ったが

その度に左手の薬指を触って 自分の今を確かめた





若林課長を正式に紹介されたのは それからまもなく

よろしくお願いしますと 部屋中に響き渡る声で皆に挨拶をしたあと 

昔を知っている仲間に囲まれていた

声もデカイし人望も厚そうだ 

円華と別れた原因はなんだったんだ 

気にしないと思いながら 頭を掠める疑問が浮かんでは消える

ミーティングでも積極的に意見を出し 異を唱えた者の意見も

うまく取りまとめる

仕事のできるヤツだってことは 今日一日でよくわかった



「工藤君 いいかな? この部品だけど」



俺の名前もすぐに覚えてくれたようだ

それにしても この人は俺が円華と結婚したことを知ってるんだろうか

絶対 山根さん達が耳に入れてるはずだ

だけど そんな素振りも見せない

昔付き合った女のことなんて もう気にしてないのか 

気にしない振りをしてるのか


もし 気にしていない振りをしているのなら 相当な精神力のヤツだ

それに比べて俺は……

自分がものすごく度量の狭いヤツに思えてきた

闊達なこの男の思いを推量するのはやめようと 大きく息を吐く 

ダンッ と 靴底を鳴らし 工場内の現場へと踏み出した 




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