続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】


円華の体調はまだ戻らないようだ 今朝も辛そうに起きて出勤した

無理をするなと言っても もう少しだからと 前にも増して仕事に没頭していた



「工藤! 工藤!!」



工場内で機械音のため耳栓をしている俺を 課長が大声で呼ぶ

慌てたように手招きをする課長に走りより 防音壁で仕切られた事務所に入った



「広川君が医務室に運び込まれたそうだ 冨田先生がすぐ連絡をくれって!」


「えっ? それで彼女は!」


「わからん とにかく電話しろ」



課長が差し出した電話をひったくるように受け取り番号を押した

まったく倒れるまで仕事をするなんて どうかしてる

玲子さんの話だと 気分が悪くなりうずくまって動けなくなったらしい

病院に連れて行って欲しいということだった

課長に事情を話し 午後から休暇をとり 急いで医務室に向かった

途中 廊下で若林課長に呼び止められた



「工藤君 明日 業者が来るんだが立ち会ってもらえるかな?」


「明日ですか……今はなんとも」



口ごもった俺の態度を不審に思ったのか どうしたのかと聞いてきた



「あの……妻 妻が体調を崩して これから病院に行かなくてはならないんです

明日 出社できればいいんですが」


「それは大変じゃないか 急ぐところを引き止めて悪かった 

明日は誰か他の人に頼むよ」


「申し訳ありません 失礼します」




医務室への廊下を急ぎながら 今の会話を思い出した

円華のことを なんて言ったらいいのか一瞬迷った

上司に嫁さんじゃ変だし ウチのがってのもちょっと

女房ってのも偉そうだし 家内ってのは俺にはまだ言えない 


”妻が体調を崩して”


妻って初めて口にしたよなぁ

なんだか変な気分だけど悪くないか

そのときの俺は きっとニヤケてたと思う




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