続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】


あの頃 親父の介護で疲れていた俺を見守りながら 

円華はずっとそばにいてくれた

彼女もその頃 何かを抱えていたなんて思ってもみなかった

俺達は互いが必要で 一緒にいることで抱えていたものを軽くして

いったのだろう

そう思ったら このひと月ほど心の奥に抱えていた わだかまりも

薄らいでいった



「あのホテル 懐かしい」


「はは……毎週休憩してたからなぁ」


「ふふっ 休憩ねぇ~ 要はホントに寝てたもんね」


「その前に やることやったじゃないか」


「やることって もぉ~~ あからさまに言わないの」


「記念に寄って行く?」


「やぁよ 帰る場所があるのにもったいない さっ帰るわよ」



”帰る場所がある”

この一言が 今の俺達を凝縮しているようで 心にジンと響いた






それから時間の許す限り二人で海に通った

円華の釣りもそれなりに形になり 俺の心の奥のモヤモヤもすっかり消えた頃 

とんでもない場面に遭遇した


会社の玄関の吹き抜けの二階に ちょっとした休憩スペースがある

廊下を曲がり 顔を上げた先に円華を見つけ 歩み寄ろうとしたときだった

もう一人 聞き覚えのある声がして 俺はその場で足を止めた



「その後 体調は?」


「もう大丈夫です あの時はお世話になりました」


「ずい分他人行儀な話し方をするんだな」


「前とは違います お互いに結婚してるし……」


「驚いたよ こっちに来て広川が結婚したってこと 初めて知った」


「えっ? だって社内報に載ったはず てっきり知ってるとばかり」


「去年まで他の会社に出向してたから知らなかったんだ」


「そうだったんですか……こちらには単身赴任だって聞いたけど 

お子さんの幼稚園のため? もうそれくらいの歳でしょう?」



円華の話し相手は若林課長だった


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