続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】
帰りの車の中で 赤ちゃん可愛かったわねと 円華がほんわかと微笑む
「子供 欲しくなった?」
「うん 年子でも双子でも一気に産んじゃおうかなぁ 要 協力してね」
「協力してねって そりゃ子供を作るならいくらでも」
「やぁだぁ 育児に協力してって言ってるのよ」
「はは……どっちも協力するよ」
「またそんなこと言う なんでそっちの方に話が行くのよ」
俺を睨みつけたあと ぷいっと横を向いて顔をそらせたが
顔ほど怒っている様子ではなかった
桐原さんちの赤ん坊が よっぱど可愛かったのだろう
小さな手を力いっぱい握り締め 体に似合わぬ声で泣き叫ぶ
赤ん坊の一生懸命さは無条件に可愛い
自分に子供が生まれたら 可愛くて仕方ないだろうなぁ
だけど 可愛いだけじゃ子供は育たない なんといっても手がかかるしなぁ
いずれそんな時きたらなんとかなるさと その時は俺も円華も
まだ真剣には考えていなかった
まさか そのあと間もなく 現実になろうとは……
「若林 奥さんと別居しているらしいぞ」
「らしいな ずっと実家に帰ったまんまだって聞いたぞ
アイツ 体裁を気にするところがあるからなぁ
奥さんを迎えにも行かないんじゃないか?」
なぜか俺に声を掛けてくれる円華の同期3人組
山根さん 丸田さん 加賀見さん
飲むたびに俺をいたぶって楽しむのには慣れていたが 今夜は少し雲行きが
違っていた
「そうだろう アイツはいつもそうだ 周りの意見をまとめるのは長けてるが
若林自身はどうしたいのか言わないじゃないか
だから まどちゃんを泣かせたんだよ 自業自得だ」
「山根 おまえ厳しいなぁ そこまで言わなくても」
「いいじゃないか 本当のことだ この工藤の方がよっぽど男らしい
よぉ工藤 おまえは偉い!」
かなり酔っ払っている山根さんに褒められ はぁ~どうも……と
わけのわからない相槌をうつ
「工藤 おまえがまどちゃんを幸せにするんだ いいかぁ 頼んだぞ!」
「はい そのつもりです」
「なぁにが ”そのつもりです” だ えらそーに!」
褒められたり けなされたり 言いたい放題の三人組に またも拳を食らったが
今夜は反撃せずにやり過ごした
この三人は 円華と若林さんのこともずっと見てきたのだろう
山根さんの口ぶりでは 二人が別れたいきさつも知っているようだし
別れた後の円華を慰めてくれたのも この三人かもしれない
そう思ったら 先輩たちが急に近く感じて 同志のように思えてきた