続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】
今年もあと数日となり今日で仕事納め 明日から10日あまりの休日に入る
昨夜お義母さんから電話があり カニをもらったから分けてあげると言われ
仕事帰りに円華の実家に寄ることにしていた
今朝熱っぽいと言っていた円華に 昼休み 『熱はどお?』 と
メールしたが返事が来ない
気になって円華の部署に行こうと歩き出すと 廊下の隅にしゃがみこむ円華と
反対側から歩いてきた若林課長が目に入った
あわてて駆け寄ると 若林さんも走りだし 俺より先に円華にたどり着いた
「どうした また気分が悪いのか?」
「めまいがして……」
若林さんが円華の肩に手を掛けたときだった
苦しそうに胸に手を当てていたが いきなりもどし始めた
一瞬ひるんだ男の代わりに 円華に声を掛ける
「全部出した方がいい 胸が苦しいのか?」
「メールの返事をしようとしたら 急に気分が悪くなって……」
「これを」
若林さんがハンカチを差し出す
すみません 借りますと返事をし 円華の汚れた口元を拭いてやった
「立てる? あっ 俺が運びます」
手を貸そうとした若林さんに 俺はとっさに断りを入れていた
円華を立たせ抱きかかえたとき 女の子達が駆け寄ってきた
「ここはあとで始末するから」
「工藤さん 私達がやりますから 広川さんを先に」
「ごめん ありがとう 頼むよ」
悪いと思ったが 汚物の始末を彼女らに頼み 円華を抱き上げた
なぜか……背後で ”わぁ~” と歓声が上がる
腕の中の女房はグッタリとし 俺の首に回した手が熱く 体も熱っぽいようだ
後ろから 円華の持っていた書類を手に若林さんもついてきた
行き違う社員が驚いたように我々を見送っている