続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】


二日後 借りたハンカチを返すだけでは気がすまず 新しい物を購入し

年末ギリギリまで仕事をしているという若林課長のもとに 円華と一緒に礼に向かった

ハンカチを差し出すと 恐縮しながらも受け取ってくれ 立ち話もなんだからと

椅子を勧められた 

フロアに社員は誰もおらず 若林さん自らコーヒーを運んできてくれた



「工藤君がご主人だったとはねぇ 驚いたよ」


「隠してたつもりはなかったんですが……」


「誰も教えてくれないし それに広川は旧姓のままだったからわからないよ 

そうかぁ 君がねぇ」


「本当に知らなかったのね……あらためて紹介するわね 私の夫です 

彼に捕まったの」



”えっ 捕まったのか?” と聞き返すので 

”はいそうです 捕まえました” と俺が答えると 若林さんは大きな声で

笑い出した

高らかな笑いが 無人の事務所に響きわたる



「ハンカチ ありがとう……広川がもどした時 正直びっくりしてね 

とっさに身を引いてしまったんだ

だけど工藤君は違ったね 広川の口元を拭いて 

服の汚れも構わず抱きかかえて医務室に運んだ」


「夫婦なら当たり前じゃありませんか? 

そんなに驚くことじゃないと思いますが」


「夫婦なら当たり前か……そうかもしれない あのあと考えたんだ 

僕は妻に同じ事をしてやれるだろうか

離れている時間が長すぎて遠慮があるんじゃないかと思った 

妻と距離がありすぎるような気がしてね」


「どうしてそんなことになったのか 考えてみたの?」



円華が言いにくいことをズバリと聞いた



「距離を置きすぎたとわかってるのに どうして近寄ろうとしないの?

若林さんのことだから 君の好きなようにしたらいいなんて言ったんでしょう」



この前とは違い 円華の口調は 以前この男とかなり親しかったといった

話し方だった



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