続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】
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猛暑の今年は妊婦にとっては最悪ねと 涼しい店内に入り安堵したのか
ため息とともに円華の口から何度も聞いた台詞が また出てきた
大きな腹が辛そうな女房と 手を繋いでゆっくりフロアを歩く
家の近くに県外資本の大型店ができ この夏 涼を求めてよく通った
通路が広く ところどころに椅子がある店内は 老人や妊婦にとって
優しい造りになっていた
「遠出はダメよ だけど家にじっとしてちゃ赤ちゃんは生まれないの
歩くのが一番 一人は危ないから 要さんに必ず付き添ってもらいなさい」
広川のお義母さんは 娘の初産にソワソワしながら 注意点はピシャリと
おさえてくる
出産予定日を2日過ぎ 俺も円華も落ち着かない日を過ごしていた
「陣痛ってドラマみたいに イタタッ って
いきなり痛みがくるわけじゃないんだって
じっくり痛みが広がるのよって和音ちゃんは言うけど
玲子先生は破水から出産になっちゃったらしいし
あぁ~心配 私はどのパターンかなぁ」
「どっちにしろ俺がついてるよ
何かあったらすぐに病院に行けばいいんじゃないか?」
「それがね あんまり早く病院に行っても
早すぎます って家に帰されちゃうんだって
そんなのどう判断したらいいのよ」
「さぁ それは俺にもわからないや……」
出産未経験の俺達には これから起こるだろう騒動を あれこれと
予測するしかなかった
土日と何事もなく過ぎ 予定日を三日も過ぎると焦だけが感じられたが
ジリジリとその時を待つしかなかった
月曜日の朝まで出産の兆候はなく もしかして今日ではと思いながら
抜けられない会議があるため会社を休めない
大きなお腹を抱えながら 俺の出勤準備をする女房に声を掛けた
「今日はお義母さんのところに行ったほうがいいよ 何かありそうな気がする」
「うーん……そうしようかな ちょっとお腹が張ってるし……」
「おい ちょっとそれって」
「要が会社に行ったら お母さんに電話して来てもらおうかなって思ってたの」
「その前に病院に電話した方がいいんじゃないか?
それともこのまま病院に送っていこうか」
まだ病院に行くのは早いと言う円華に とにかく電話をさせると 意外なことに
”心配なら来てくださってよろしいですよ” と病院側から心強い返事だった
両方の親に連絡し 俺は出勤前に円華を産婦人科へと送って行った