続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】

 
「要もお父さんになったわね おめでとう」



お袋の言葉がやけに優しく響く

病室に入ると子どもの姿はなく 二人の母親が俺を迎えてくれた

ベッドに横になっている円華の顔が見える

相当汗をかいたのだろう 額に髪が張り付いて疲労の色が濃かった



「赤ちゃん 今日は新生児室に預かってくれるみたい 

私達 これから赤ちゃんに会いに行くけど

要さんも一緒に行きましょうか」


「あっ 俺は後で行きます 先に行ってください」



円華のそばに行き椅子に座る

手を握ると 疲れた顔がゆっくり微笑んだ



「赤ちゃん あっという間に生まれちゃった 連絡する暇もなかったの」


「そうらしいね 体はどお? 痛みとか残ってないの?」


「それなりに痛いけど 出産の痛みに比べればなんてことないかも 

ふぅ……要の顔を見たら気が抜けちゃった」


「頑張ったんだ お疲れさま……だけど男って ホント役に立たないね」


「そんなことないって ねぇ 赤ちゃんの顔を見てきて 

目が大きくて可愛いわよ 要に似てる」


「そうなんだ 俺に似てるんだ……」



俺に似てると言ってくれた女房が愛おしくて 握っていた手を引寄せ肩を抱いた

じんわりと喜びが込み上げてきた




ひと目でウチの子だとわかった

新生児室にいる赤ん坊は ウチの子以外は男の子ばかり

一人だけピンクの毛布に包まれて 大きな目を閉じて寝ていた



「ほら見て 美人でしょう? 今は寝てるからわからないけど 

お目目ぱっちりなのよ 赤ちゃんの顔って見飽きないわね」


「本当に……要さん 連絡できなくてごめんなさいね 

円華の陣痛が急に強くなって そのまま分娩室に入っちゃったの

私も工藤のお母さんも慌てて 分娩室の前でオロオロしてる間に

オギャーって生まれちゃって」


「そうなのよ まさか初産でこんなに早いなんてね」



とにかく無事に生まれた それだけでいい

ガラス越しに見る赤ん坊の顔を 俺は ただただ眺め続けた




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