続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】
『 命名 長女 鈴 』
親父の伸びやかな字で書かれた命名書が貼られた床の間
小さな布団に寝かされた鈴は 今日も元気に泣いていた
退院後 しばらく広川の実家にお世話になることになった
「要さんも一緒にいらっしゃい ここから出勤すればいいわ」
お義母さんの言葉に甘え 俺も円華の実家から出勤している
出産後の円華は至って元気で 布団に寝ることもなく普通に生活していた
名前は俺が決めた
男でも女でも 名前は一文字にしようと あれこれ考えていたが
生まれる直前まで男の名前は決まらず 鈴という女の名前だけ決まっていた
いま思うと 女の子が生まれるってことだったのかもしれないなぁと
思ったりもする
”すず” と言うのが本当の呼び名だったが お義母さんが ある日
「リンちゃん」
こう呼んだのが始まり いまでは誰もが ”リンちゃん” と娘を呼ぶ
鈴ちゃんの声を聞いてたら 鈴がリンって鳴るみたいで可愛かったのよと
お義母さんはご機嫌だった
その中で お義父さんだけは ”すずちゃん” と頑固に呼び続けた
「おとうさんったら 私のことは ”まどか” って呼び捨てなのに
孫には ”すずちゃん” だって 孫って可愛いのね……」
円華は娘に嫉妬しながら お義父さんの様子に驚いていたが
それは俺も同じだった
お義父さんは 気がつくと鈴のそばに来て顔をのぞき込んでいる
泣けばすぐに抱き上げる
手に負えなくなると ”まどか すずちゃんが呼んでるぞー!”
と円華を呼ぶ
何より毎日の入浴は お義父さんの仕事だった
お陰で 俺はまだ一度も鈴と一緒に風呂に入っていない