続・結婚白書Ⅱ 【手のひらの幸せ】
「まどちゃん ちゃんと寝てる? 彼女 寝不足だと思うんだけど……」
廊下ですれ違った 産業医の冨田玲子先生が 俺を呼び止めた
「円華 何か言ってましたか?」
「うん 疲れてるって……残業続きでしょう
新婚なんだから早く帰ればいいのに そこが彼女の融通が利かないところね」
「そうなんです……」
「たまには強引に誘って飲みに行きましょう」
円華の友人でもある玲子さんは 結婚後も変わらず接してくれる
もしかして 玲子さんが知ってるかも……聞いてみるか
頭の中で引っかかっている男の名前を口にした
「玲子さん 若林さんって知ってますか?」
思案気な顔が遠くを見ていたが あっ! と思い出したようだ
俺の顔をみて ニヤリと笑う
「工藤君 その名前どこで聞いたの? まさか まどちゃんじゃないわよねぇ」
「山根さんたちに ちょっと聞いて……」
あはは……と 玲子さんが高らかに笑う
笑った後 俺の肩をポンッと叩いた
「工藤君 彼らに苛められたわね みーんな まどちゃんを狙ってたもの
今頃仕返しのつもりかしら」
「仕返し?」
「そうよぉ 誰も手を出せなかった広川円華と結婚した男って
どんなヤツだって アナタ相当ウワサになってたのよ」
「で 若林さんって人は……」
「あぁ ごめん ごめん そうだったわね
でも 私から言ってもいいのかなぁ……
一時 まどちゃんと付き合ってた人よ 転勤して もうここにはいないけどね」
円華の口から 一度だけ聞いたことがあった
”私だって 結婚したいと思った人だっていたわ”
それが 若林って男なんだろうか
「工藤君 気にすることはないわよ 彼ら アナタをからかって遊んでんのよ
それより まどちゃんをお願いね 彼女 無理するなって言っても
聞かないんだから
大事なダンナ様のことなら聞く……かも……ウソ……あれって……」
俺に向けられていた玲子さんの視線が 肩越しに遠くを捉えていた
「どうしたんですか?」
廊下の向こうから大きな声がする
「冨田先生 お久しぶり お元気でしたか」
「若林さん」
もしかして コイツが円華の……
俺と若林紀之の出会いだった