思春期の恋
中学に入ると、
柊司は、剣道部に入部した。
私は、バスケ部に入ったから、
時々、体育館で剣道部と隣同士になり、
見るたびに男らしくなっていく柊司を見て、
複雑な気持ちになっていた。
スポーツ刈りだったくせに、
髪なんか伸ばしちゃって。
どんどん柊司が遠ざかっていく
どんどん知らない柊司になっていく
柊司は剣道部の部長になった。
後輩たちが並ぶ前に、
向き合うように柊司は立ち、
低くよく通る声で、
後輩達を仕切っていた。
紺色の道着が、
柊司は良く似合っていた。
正座をして黙想する
そのまっすぐな姿勢
目をつぶった顔
鼻筋の通った、
綺麗な横顔
そして目を開き、両手をついて深く床に頭を下げる。
そのひとつひとつの所作が、
柊司はとても綺麗だった。
正座をしたまま、胴を体に装着し、紐をキュッと引っ張る仕草。
そして紺地に白い文字が書かれた手ぬぐいを顔の前に広げ、
目にかかっている前髪を上げて、
手ぬぐいを頭に巻くと、
いつもは前髪で隠れているキリッとした眉毛が見えて、
ちょっとドキッとする。
両手で面を着け、
頭の後ろの紐を縛り、
左右に紐をキュッキュッと引っ張ると、
小手をはめ、
竹刀を持って立ち上がった。
あんなにかわいい女の子のような顔だったのに、
あんなにすぐに泣いちゃう、
弱い子だったのに、
今の柊司は、
堂々と竹刀を構え、
大きく足を踏み込んで、相手に打ち込んでいく、
剣道の強い、
端正な顔立ちの、
どこからどう見ても、
【男】になっていた。