青空の神様
あたしはあの人の後を、楽しそうな笑い声に包まれながら、ついていく。   そこには誰もいない、50mプールが広がっていて、風に吹かれ、キラキラと水面が揺れていた。きれいというよりも、少し恐い感じがするくらい、広く、深く思えた。         あの人は、いつものように、タオルの上にサングラスを放り投げ、イヤフォン付きの携帯ラジオをその横に丁寧に置いた。あたしも、タオルを足元に置き、あの人と一緒に準備体操を始めた、足の屈伸からはじめ、体を一通り動かすと、  「ななみ、クロールであっちまで泳げ。」     心なんてないみたいに、低い声で、無表情に言い放つ。あたしも、無表情になっていて、たぶん心も消そうとしているのだと、自分で感じる。        「うん。」       あたしはプールサイドで軽く水温を確かめながら、手で体に水を浴びせた、なんて冷たいのだろう。きっと広いプールだから、他の二つのプールよりも水温は低いだろうけど、でも、心に染みる冷たさがそこにはあった。         ゆっくりとプールに入ると、身長130cmほどのあたしは、鼻の下まで水面がきていて、つまさきで立っていてもギリギリだった。むしろ自分が水に入ったときに起きる波で、鼻まで水に入るかたちになるので、呼吸を整えるだけで必死になる。
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