青空の神様
若いカップルの、若い彼氏は、プワプワ浮いている、あたしを広いプールから救い出してくれている。何だか、はずかしくて、変な気持ちだな。あたし、ぐったりしててフニャフニャだよ。でも、こう見ると、スイスイと泳げそうな体をしているもんだなぁ、手足は長いし。と、そんな事を考える余裕があたしにはあったんだと思うと、心が少しだけ弾んだ。       若い彼氏さんはまだ十代後半で、細い腕であたしを抱き抱えてくれていた。そっとあたしを仰向けに寝かせると、フェンスの際で寝ている、サングラスのあの人の所に駆け寄り、何か叫んでいる。        あ、あたし音も聞こえないんだ。そういえば、風も空気も感じない。あたしの夏匂いは消えていた。   急に寂しくなった。起きてよ、お父さん! ハッとした。あたしは、お父さんの隣にいた。でも、声が出ないのも聞こえないのも変わらない。        お父さんは、眩しそうにサングラスをはずして、ラジオのイヤフォンを取ると、若者の声に耳を傾け、あたしの体の方へ、駆け寄った。           あたしもついていく。お父さんは、あたしの体を揺すっていた、頬をペチペチといった感じで叩きながら、あたしの名前を呼んでいるようだ。あたしは嬉しかった。あたしは、お父さんを見ていた。何か嬉しかった。
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