日々
「…どしたの大輝、イケメンになっちゃって」
にやけながら、
前を歩く背中に声を掛ける。
「あーあぁー、照れる。今のなし」
「いやいや、無理だから。
もう心に刻んじゃったから」
「刻むなよ…」
「だって嬉しいじゃん?まさか大輝に
そんな言葉を掛けられるなんて…」
人混みから抜け出し大輝が振り返った。
そしてまた笑う。照れすぎだろ、お前。
「忘れろよ…」
「ムリだな」
小学生の頃の俺は、
大輝の後ろを歩くことが
当たり前だったんだ。
俺が地元の中学に上がらないと知って、
周りの友達がお別れ会をしてくれたとき、
大輝は一言も話さなかった。
それが悲しくて、大輝とまた話したくて、
いつも引っ張ってくれる大輝は、
俺にとって憧れの存在だったから。
だから中学で陸上部に入ったんだ。
『陸上部に入れよな!
試合開場で待ってる!』
…なんて、言われたから。
そんな大輝とは、
年に二回の試合開場で会えた。
でもそれ以外で会ってはいない。
高校に入ってからも一度も。