僕は奏者を愛してしまいました。

運ばれてきたココアを飲み、一息ついたところで海音は口を開いた。


「……誠也の、楽団のパートメンバーなんですよね、長峰さんは」

「うん」


海音の目がふらりと揺らぐ。


「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」


何の前触れもなく、テーブルに額がぶつかる寸前まで、海音は頭を下げた。

秀人は慌てた。


「そんな、謝らないで」

「でも」

「誠也がああなったのは、樋渡さんのせいじゃない」

「でも」

「いいから、顔を上げて」

「…………」


数秒して、海音はゆっくりと顔を上げた。

ず、と秀人がコーヒーをすする。


「誠也の事件は、まだ自殺と断定された訳じゃない。あの場所では転落事故ってこともあり得る」

「事故……」

「柵のない通路だったし、土手には滑り落ちたような跡もあった。それに、自殺するような動機は無い、多分」


望月誠也(もちづき・せいや)。

先ほどから話題に上がっているこの人物は、三ヵ月前に鬼籍に入った。


海音の高校の同級生である誠也は、吹奏楽部のトランペットとして海音と共に活躍した。

卒業後は大学の吹奏楽部には入部せず、一般バンド・リフェナウィンドアンサンブルに入団。
トランペットの一員として、ようやく馴染み始めた矢先の出来事だった。
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