† of Human~人の怪異
「くそ……!」

忌々しいと思う。ガンッ。憎々しいと思う。ガンッ。ただただ、一直線に、腹が立つ。あの女を殺してしまいたい。自分はそれができる。人間を超えたのだから。

そう、やるのなら、徹底して。ガンッ。彼女を奈落へ突き落としたい。ガンッ。

飲み込むことは、一瞬だ。ガンッ。それでは、三十回も腕を斬り落とされた自分の気がすまない。ガンッ。

より絶望を、より恐怖を、より地獄を味わわせてやりたい。ガンッ。

ふと、桜庭の明晰な頭脳に、妙案が浮かんだ。

彼女はひどく、激昂していた。

クラスでも穏やかな人格で定着していた彼女が、あそこまで激したのはなぜか。

ガンッ。

粛正の言葉のもと、剣を顕現させたのはなぜか。ガンッ。

(僕が、みんなを食ってやったからだ)

ひは、と、自分でも気味の悪い笑みが漏れたと思う。

思い出したのだ。あの蹂躙してやった教室で、恐らくまだ生きているだろう存在を。

小名木和幸という、親しくもない友人を。

殺せば、今、この上なく上野楓へ心的被害を与えられる人間を。
< 36 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop