† of Human~人の怪異
ひは、と、また笑声。

気付けば、いったい何度壁を叩いていたのか……室外機を内蔵しているコンクリートが、ぼろぼろになっていた。

先ほどからの硬い音は、コンクリートが砕けるものだったらしい。

どれだけ拳を振るってもコンクリートの硬さを感じられなかったので、気付かなかった。

「あ~あ~あ~!」

と、唐突に声がした。

振り向けば、白い中華スタイルのエプロンを着た男が、舌打ちをしている。

男のそばの、勝手口が開いていた。どうやら、この壁――もとい店の男らしい。

「ったく、なにしてくれてんだよ、ウチの店に。壁ボロクソにしちまってよう!」

のっけから喧嘩腰の、いやにネトネトした喋り方。

男の言いたいことは、わかる。

店の壁を弁償しろというのだろう。

が、男の態度も喋り方も、予想できる胸中も、

「はぁ、なんてちっぽけなんだろうね」

桜庭には、ため息の種でしかない。

自分の踏み越えた存在は、こうしてみればなんと、なんと小さいことか。

あまりにも矮小すぎて、予想の範疇過ぎて、溜め息でしか対応できない。
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