† of Human~人の怪異
すり潰されたクラスメイト。上半身だけになった教師。血の海と化した教室。薙ぎ払われた机。砕けた窓ガラス。崩落した天井。狂気に笑う桜庭紅蓮。剣を振るう上野楓。荒れ狂った大蛇。無力な自分。

その記憶が、光景が、和幸を圧迫する。

そして同時に、意味のない疑問を生む。

なぜ、自分は生きているのかと。

あれほどの出来事である。自分が生きているのが、不思議でならない。

そして、なぜ自分ひとりだけが、生きているのかと。

運命なのだろうか。それとも、ただの偶然だろうか。わからない。

起こってしまった『事実』を理解できても、なぜその『事実』がこのような形に終結しようとしているのか、十七年目の人生を迎える程度では、計り知れない。

思えば、自分が生き残らなくてもよかったのではないかと、和幸は暗いほうへ考える。

自分が生きていることは、素直に嬉しい。その喜びが大きすぎて実感できないほどに、嬉しいと思う。

母親を悲しませずにすむと思うと、それもひとしおだ。
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