† of Human~人の怪異
「一気に話します。この世の一切はおしなべて変動しています。存在とはプラスへマイナスへ、あるいはどちらでもない0へと向かい、常に変幻してます。ただ、この変化において異常なものがあって、それが、†と呼ばれる状態」

「? 今、なんて? どんな状態だって?」

黙っていなければと思っていた和幸だが、思わず、訊き返してしまった。

上野は、和幸が訊き返してくることを予測していたのか、これを責めず、素直に繰り返す。

「†です」

「? もう一回」

「†」

「……は?」

と、和幸は違和感を、声と表情に乗せた。


上野楓が、なんと言っているのか、わからないのである。

それは、聞き慣れない外国語を理解できないのとは、意味が違う。

桃色の唇が、ゆっくりとまた、

「†」

なにか、言葉を発したようだが、やはり上手く聞き取れない。

たしかに、上野はなにかを言っている。口パクではない。

しかし、なんという音がそこから出ているのか、和幸の耳は処理することができなかった。
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