† of Human~人の怪異
言うなれば、存在している無音。

意味のある雑音。

小名木和幸という人間の、可聴範囲から外れた言葉。

上野は、和幸の困惑した表情を、笑うでもなく見つめる。

「小名木くんに、†を聞き取るのは不可能です。これは、理解した者のみが使用できる単語ですから。

名前のないなにか、言い表せない状態や現象だと思っておいてください。†には、いろいろな意味があるので、理解はなおさら難しいです。

それでも少し説明すると、根源、定義、本質、欲望、様々な意味を持ちます。私の理解している†も、恐らくは†という単語の、ほんの一部でしょう。

あらゆるものの存在を一番深いところで形作る、遺伝子よりも、魂よりももっと基本的で緻密、かつ単純な、物事や生物の発生理念だと思ってください。

私もそれくらいしかわからないので、小名木くんはそれ以上、今は気にしなくていいです」

そうしなければ話が進められない、と言葉の裏に仕込まれていた。
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