† of Human~人の怪異
角を曲がって、ちょうど犬の散歩をしている中年男性に妙な顔をされるが、無視した。

一ツ橋はあまり好きではないが、その話の逐一は嫌味のように『事実』である。

信憑性は、たとえどれだけ突拍子がなくても、高い。

区長は、唸り声を交え交え、続ける。

『こっちでも明確な証拠があるわけでもないんだ。確認してみたところ、それらしい兆候も見受けられないし。

だけど、あの一ツ橋さんが言ってるしね。なんか、共鳴やら同族意識がどうとかで。

だからこっちでも用心しておこうかとね。とりあえず、粛正からは対象外だから』

「そうですか。つまり任務時の後援は私の補佐というよりもむしろ、万が一の事態に備えた第二波ということですね」

『うん、そう。君って理解が速くって好きだよ、楓くん』

「照れるのでやめてください」

不思議なもので、他人へ好き、好ましいという感情を押しつけるのは平気なくせに、自分へ当てられる好意については、とことん免疫のない自分である。

本ばかりを相手にしていると、どうにも対人関係でうぶになってしまう。
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