† of Human~人の怪異
起こさないよう、気取られないよう注意を払いながら、和幸はTシャツとジーンズに着替えた。時計の針は、すでに四時を迎えようとしている。

これがもう一周もすれば、大木市旧繁華街、西側にそびえる大木ホーンタワーを、東から昇る陽光が橙色に染め始めるだろう。

静か静かに、靴を履く。爪先を蹴るのではなく、ぐいぐいと靴下を履くように。

そして振り返る。母は気付いていない。

自分が今、こんな時間に、外出しようとしていることを。もちろん、その理由を。連想すれば、今日学校で起こった出来事も、また。

できるなら、学校の出来事も教えたくない。

あの『事実』を知った母は絶対に、自分を心配するだろう。もう過ぎ去ったこと、どうにもならないことをひっくるめて。

自分は生きていて、それで落ち着いていることなのに、よかった、よかった、と。

まるで、事件直後に居合わせたように、自分を抱き締めるだろう。

嫌ではない。だが、望みたくはない。

なぜなら、それは母が自分へ心を割くから。

そんなことになるなら、教えたくない。知ってほしくない。
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