† of Human~人の怪異
しかし、そんなことは不可能だ。不可能なら、やがてくるその時を、受け入れなければいけないのだろうと思う。

親不孝はするまい。

だから母が割いてくれる心を、ありがたく受け取りたい。

この歳になると非常に照れるのは隠せないが、素直に、そう素直に受け取りたい。

そのために、心のわだかまりや、未解決の部分を解消しにいく。

その時を、素直に受け入れられるように。

上野楓に、利用されようと。

「――出掛けんの?」

と、ドアノブを回した時、その音に気付いたのか、はたまた最初から起きていたのか、呼びかけられた。

母が、体を起こしている気配はない。布団に入ったまま、声だけが投げ掛けられている。

和幸は、

「ああ、ちょいそこまで」

「ふぅん」

母が自分を止めるために声をかけたのではないと、わかった。

わかって、

「すぐ帰っから」

「そ。気ぃつけていってらっしゃいね」

「お」

それに、甘んじる。

がちゃんと、ドアが閉まった音は、大きく響いた。
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