† of Human~人の怪異
さすがに四時ともなれば、起きているのは電線に止まる鳥、道端をうろつく猫くらいか。

校舎の周辺には警察のテープが張られているものの、人影はなかった。

暗中、校舎の一角がものの見事に吹き飛んでいるのを見ると、磨り潰され飲み込まれ、赤く黒く蹂躙された光景を、思い出さずにはいられない――それはたしかだ。

たしかだが、自分にはまったく取り乱す気配が見られない。

思えば最初から自分は、桜庭や上野の行いを見て驚きはしたものの、狂いはしなかった。

あの時、泣き叫ぶか、狂気に喚くかしていたほうが、人間らしかったのではないだろうかと思う。

しかし、自分が悲鳴をあげたのは、あの場景ではなく降ってきた瓦礫に対して。

とことん、ずれている。

狂っていたのは桜庭紅蓮。

叫んでいたのは上野楓。

ならば、自分は?

小名木和幸は、あの場でなにをしていた?
< 70 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop