† of Human~人の怪異
そんな下らない問答とともに、和幸は堅固に閉じられた校門を乗り越える。

乗り越えた先で、

「やあ、巡り合わせって信じるかい、小名木くん」

声が、降ってきた。

見上げると、闇に身を落とす校舎の屋上、影が縦に伸びている。

和幸は声から、それが上野楓ではないと察した。だれであるかも。

夜明け前というのは、本当に微妙である。

日もなければ、月の光も頼りない。

遥か街の地平線、輝く月は白く、白いがしかし、明かりとは呼べない。

それでも和幸はここへ来るまでに、ずいぶん夜宵に慣れた。

人物の輪郭を捉えればそこから、姿も見えてくる。

桜庭紅蓮。

彼が、屋上のへりに立っていた。

舞台俳優でも気取っているのだろうか。

桜庭は大仰に腕を左右へ広げ、朗々と言った。

「小名木くん、僕はまず、君に感謝しようと思う」

「感謝?」

「そう。感謝だよ」

と、影の首がうなずく。
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