† of Ｈuman～人の怪異
「そのためにね、彼女にはありったけの、僕が、この僕が味わった以上の屈辱や怒りを刻み込んであげたい。

その代償として、小名木くん、君の犠牲が必要なんだ。そして君はきっと、この僕のために犠牲になる。感謝するよ、小名木くん。この、巡り合わせに」

「……」

「君が死ねば、上野さんは憤る。その怒りを、僕はねじ伏せる。地べたに落としてやる。凌辱するのさ、彼女の激情を。

ああ、きっと彼女は、悔しさに顔を歪めるだろうね。そうすれば、僕の屈辱は晴れるんだ。

そのための大前提に、君の死がある。僕のため、そう僕のためになれるんだよ。わかってくれるよね？」

そして、闇夜に佇む少年の両腕が、肥大化した。

いつ何時も、空に輝く月はひとつ。

しかし、和幸の見上げる先で月はさらに四つ、黄金色に光っていた。

大蛇の、眼光。

微弱な月光が、桜庭の従える蛇の鱗を、てらてらと浮かび上がらせていた。

蛇の舌なめずりが、

「さあ、だから死んでくれるね、小名木くん。僕のために」

桜庭の言葉に、混じる。
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