† of Human~人の怪異
ふと、教師がそのやりにくさに、耐えきれなくなった。

「上野、桜庭、どうした。気分でも悪いか? もしそうなら保健室行ってもいいぞ?」

それに答える桜庭の声は、

「いいえ、先生、まったく」

なぜかえらく喜色を帯びていた。例えば、果てない喜びを必死にこらえているような……今にも高笑いし出しそうな声だった。

対して上野は、

「……大丈夫です。ご心配なく」

明らかに嘘としか思えない、厳つく険のある声だった。それも言葉通り、心配することを真っ向から拒絶している、強い声。

どちらも、意識ははっきりとしている。受け答えも逡巡がない。気分が悪そうには見えない。

ならば、無理に保健室へ行けと言うのもおかしい。

教師は仕方なく、そうか、と頷くだけで黒板へ向き直った。
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