HAPPY CLOVER 3-夏休みの魔物-
#06 従兄とニアミスなんてしてる場合じゃないのです。(side舞)
「あら、舞と同じクラスの……えーと、なに君でしたっけ?」
母は私の問いを無視して清水くんに話しかけた。どうして清水くんが同じクラスの男子だとわかったんだろう。
清水くんもさすがに驚き顔のまま、ぎこちない返事をする。
「清水暖人です。こんにちは。いつもお世話になってます」
「ああ、清水くん! そうだったわね! こちらこそ、いつも舞がお世話になってます」
私は自分の母親を横目で見ながら首を傾げた。
――この人……。
そういえば高校の入学式の後、母は私にこう言ったのだ。
「どう? いい男はいた?」
あのときの母の顔は最高にニヤけていた。一体どういう母親だ、と思ったが、もしかしたら母は本気でクラスメイトの男子をチェックしていたのかもしれない。
――この人なら十分ありうる。
何しろ、母は自他共に認める面食いなのだ。実際、父は未だに会社の同僚の奥さん連中から「カッコいい」と騒がれるような容姿だったりする。母は父のことを100パーセント顔で選んだと思う。
しばし、母を白い目で見ていたが、今、この状況を考え直してみると、私は決して母をバカにはできないということに気がついた。急に背中が寒くなる。
――いや、あの、私は清水くんの顔だけを好きなわけじゃないんです!
心の中で慌てて言い訳しながら、母と清水くんを見比べた。
「二人の時間をお邪魔しちゃ悪いので、買い物してくるね。後で迎えに行くわ」
そう言うと、母はニヤニヤといやらしい笑いを浮かべてそそくさと立ち去った。
清水くんは「ふう」とため息をつく。
「あの、ごめんなさい。あんな母親で」
「いや、すごく美人なお母さんで緊張した」
「へ?」
私は拍子抜けして変な声を出してしまった。
「どこが?」
「なんか、まともに顔を見ることができなかった」
そう言った清水くんの顔は本当に少し赤らんでいて、私はものすごく複雑な気分になっていた。
――どうせ、私は両親のいいところをもらってきませんでしたよっ!
こういうことを思うのはひねくれていてバカなことだとわかってはいるのだが、私以外の家族は他人から容姿を褒められることが半端ではなく多いのだ。いじけたくもなる。
「やっぱり舞のお母さんだよね」
「どういう意味?」
清水くんは私の刺々しい言い方にビクッと肩を震わせた。
「だって、似てるよ。舞もきっとあんなふうに若いお母さんになるんだね」
なぜかとても感心したように清水くんはしみじみと言う。
――若いお母さん、ねぇ……。
来年のこともわからない私に、そんな先のことなど想像もできないけど、いつかは誰かと結婚して母親になるのかもしれない。
――誰と?
そう考えながら清水くんを見ると、彼も私を見てにっこりした。
「見てみたいな」
「え?」
「大人になっても、舞と……」
――ええーっ!?
清水くんは言葉の途中で視線を外してフッと笑う。それからジーンズのポケットに手を突っ込んでくるりと後ろを向いた。
――ちょ、ちょっと、その、言いかけてやめるのはナシで!
続きを聞きたくて仕方がないが、そんな私の気持ちなど知るはずもなく、清水くんはゆっくりと歩き始める。
――えっと、でも、あの、今のは、その、なんていうか……
――大人になっても私と、って……け、け、け、結婚!?
――いやいやいや、そこまで言ってない。落ち着け、私。
清水くんの後ろを歩きながら、私の頭の中は忙しくなっていた。
だけど、思えば清水くんがこんなにはっきりと将来のことを口にしたのは初めてだ。私との将来を考えてくれたりするのだろうか。
胸がドキドキして苦しい。
幸せと不安が入り混じって、胸の奥のほうに鈍い痛みが走る。清水くんと付き合うようになってから、この痛みをたびたび感じるようになっていた。
こんな痛みが本気で私の全身を襲ったら、私はどうなってしまうのだろう。
恋がまさかこんなに痛いものだとは思わなかった。しかも近頃の私は恋する幸せとか喜びよりも、痛みばかりを感じているような気がする。
それは相手が清水くんだからなのか。カッコいい男子なんか好きになったらいけないのかも。
でも今更そんなことを思っても、もう遅い。清水くん以外の人を好きになるなんて、今の私にはたぶん無理だ。
――やっぱり顔が好きなのかな。
自分の気持ちもよくわからない。
予備校に戻った私たちは午後の英語の授業を受けた。いつもは当然という顔で清水くんの隣に座るユウが、ひっそりと一番後ろの座席に腰掛けていて、なぜか私は始終居心地が悪かった。
母は私の問いを無視して清水くんに話しかけた。どうして清水くんが同じクラスの男子だとわかったんだろう。
清水くんもさすがに驚き顔のまま、ぎこちない返事をする。
「清水暖人です。こんにちは。いつもお世話になってます」
「ああ、清水くん! そうだったわね! こちらこそ、いつも舞がお世話になってます」
私は自分の母親を横目で見ながら首を傾げた。
――この人……。
そういえば高校の入学式の後、母は私にこう言ったのだ。
「どう? いい男はいた?」
あのときの母の顔は最高にニヤけていた。一体どういう母親だ、と思ったが、もしかしたら母は本気でクラスメイトの男子をチェックしていたのかもしれない。
――この人なら十分ありうる。
何しろ、母は自他共に認める面食いなのだ。実際、父は未だに会社の同僚の奥さん連中から「カッコいい」と騒がれるような容姿だったりする。母は父のことを100パーセント顔で選んだと思う。
しばし、母を白い目で見ていたが、今、この状況を考え直してみると、私は決して母をバカにはできないということに気がついた。急に背中が寒くなる。
――いや、あの、私は清水くんの顔だけを好きなわけじゃないんです!
心の中で慌てて言い訳しながら、母と清水くんを見比べた。
「二人の時間をお邪魔しちゃ悪いので、買い物してくるね。後で迎えに行くわ」
そう言うと、母はニヤニヤといやらしい笑いを浮かべてそそくさと立ち去った。
清水くんは「ふう」とため息をつく。
「あの、ごめんなさい。あんな母親で」
「いや、すごく美人なお母さんで緊張した」
「へ?」
私は拍子抜けして変な声を出してしまった。
「どこが?」
「なんか、まともに顔を見ることができなかった」
そう言った清水くんの顔は本当に少し赤らんでいて、私はものすごく複雑な気分になっていた。
――どうせ、私は両親のいいところをもらってきませんでしたよっ!
こういうことを思うのはひねくれていてバカなことだとわかってはいるのだが、私以外の家族は他人から容姿を褒められることが半端ではなく多いのだ。いじけたくもなる。
「やっぱり舞のお母さんだよね」
「どういう意味?」
清水くんは私の刺々しい言い方にビクッと肩を震わせた。
「だって、似てるよ。舞もきっとあんなふうに若いお母さんになるんだね」
なぜかとても感心したように清水くんはしみじみと言う。
――若いお母さん、ねぇ……。
来年のこともわからない私に、そんな先のことなど想像もできないけど、いつかは誰かと結婚して母親になるのかもしれない。
――誰と?
そう考えながら清水くんを見ると、彼も私を見てにっこりした。
「見てみたいな」
「え?」
「大人になっても、舞と……」
――ええーっ!?
清水くんは言葉の途中で視線を外してフッと笑う。それからジーンズのポケットに手を突っ込んでくるりと後ろを向いた。
――ちょ、ちょっと、その、言いかけてやめるのはナシで!
続きを聞きたくて仕方がないが、そんな私の気持ちなど知るはずもなく、清水くんはゆっくりと歩き始める。
――えっと、でも、あの、今のは、その、なんていうか……
――大人になっても私と、って……け、け、け、結婚!?
――いやいやいや、そこまで言ってない。落ち着け、私。
清水くんの後ろを歩きながら、私の頭の中は忙しくなっていた。
だけど、思えば清水くんがこんなにはっきりと将来のことを口にしたのは初めてだ。私との将来を考えてくれたりするのだろうか。
胸がドキドキして苦しい。
幸せと不安が入り混じって、胸の奥のほうに鈍い痛みが走る。清水くんと付き合うようになってから、この痛みをたびたび感じるようになっていた。
こんな痛みが本気で私の全身を襲ったら、私はどうなってしまうのだろう。
恋がまさかこんなに痛いものだとは思わなかった。しかも近頃の私は恋する幸せとか喜びよりも、痛みばかりを感じているような気がする。
それは相手が清水くんだからなのか。カッコいい男子なんか好きになったらいけないのかも。
でも今更そんなことを思っても、もう遅い。清水くん以外の人を好きになるなんて、今の私にはたぶん無理だ。
――やっぱり顔が好きなのかな。
自分の気持ちもよくわからない。
予備校に戻った私たちは午後の英語の授業を受けた。いつもは当然という顔で清水くんの隣に座るユウが、ひっそりと一番後ろの座席に腰掛けていて、なぜか私は始終居心地が悪かった。