蒼唯的痛冷な瞬間【本サイト限定作品】
グサッと
高校の頃。音楽科に在籍していた私は、ピアノを専攻していた。
家での練習はもちろん、放課後や授業中にもピアノを触っていた。
毎日のようにピアノを弾く日々。
普通の授業も受けるけれど、一日の半分は音楽関係の授業を受けていた。
ピアノの練習時間も、一日7~8時間は取っていただろう。(期末試験前は、2~3時間プラスされる。)
まさに、手は命。
私だけでなく、音楽科の生徒で手を傷つけたくないという子は多かった。
そんな自分にとって、けっこうつらいケガをしてしまったのは高校2年の夏休み前。
放課後の掃除時間のことだった。
私の高校は、生徒全員が、毎日放課後の掃除をしていた。
掃除当番などという便利なシステムはなく、毎日、全員が平等に掃除しなくてはならないという、嬉しいような面倒なような決まり事。
ローテーションされるのは掃除場所くらいである。
私達音楽科の2年の生徒数人(少人数だった)は、音楽室やピアノレッスン部屋が併設された音楽棟(仮名)の掃除をしなくてはならなかったのだが、ある日、私はそこで思わぬ罠にはまってしまった。
声楽や音楽理論を学習するための小教室(10席ほど)の掃除をしていた私と友達。
黒板の掃除をしている彼女と話しながら、私は窓枠を拭き、何気なく机の上に手のひらを乗せた。
グサッ……!
いたっ!
画鋲の針が、手のひらに刺さっていた。
何が起きたのか、すぐにはわからなかった。
手のひらに食い込む画鋲を反射的に抜くと、血が噴出。赤い丸が出来た。
まさか、机の上に画鋲があるなんて。なぜ、こんなところに?
「ビックリしたー」
私はつぶやいた。
ものすごく痛いし、感情的に表現したつもりなのだけど、私は普段から、起伏の表現力に乏しいらしい。
常に、脱力系のテンション低い人に見えるそうだ。
私から受け取った画鋲を片手に、友達は言った。
「淡々としてるね(笑い気味)、大丈夫!?
ばい菌入ってるといけないから、これ持ってすぐに保健室に行きな!」
「うん、悪いけどちょっと行ってくるー」
「いいっていいって!」
友達に見送られながら、ジンジンする手のひらを見つめた。
しばらく激しい曲は弾けそうにない。
などとは言っておられず、保健室で消毒され絆創膏を貼ってもらうと、掃除の後から普段通りピアノに向き合ったのだった。
机の上にはご用心!である。