蒼唯的痛冷な瞬間【本サイト限定作品】
ボチャっと

ほろ苦い思い出である。

私はあまりマンガを読む習慣がないのだが、14歳の頃、幼なじみの友達とマンガを貸し借りすることになったのである。詳しい経緯は忘れたが、なにげない日常会話からそのような話に行き着いたのだろう。

人生初の、物の貸し借り。数少ない自分のマンガを貸し、友達のマンガを持ち帰る。

当時、自転車通学だった私は、学校帰りに友達宅に寄った後、前カゴに通学カバンと借りたマンガを入れて帰宅した。

デコボコ加減の激しい歩道を通ると、自転車の中の物が激しく飛び跳ね、それは大きな水たまりに勢い良く落下した。

ボチャッ!! 音がする前に自転車を止めたが、遅かった……。よりにもよって、友達のマンガだけが水溜まり被害を受け、びっしょり濡れているではないか。

前日大雨だったことを思い出しつつ、前カゴを見ると、私のカバンは何事もなかったかのようにスッポリ収まっている。

なぜ、人から借りた物が落ちて、自分の私物が無事なのだ…! 普通、逆だろ! いや、最初からカバンの中に借り物をしまっておくべきだったんだ。

バクバクする心臓で慌てながらマンガを拾い上げたが、慌てた所で水溜まりに落ちた事実は消えず、私はひたすら、『どうしよう、どうしよう』を心の中でリピートした。

普通の単行本なら、買い直して弁償できる。けれど、その時借りたマンガは、最新のマンガ雑誌だったし、人気雑誌だったらしく店頭に行っても売り切れていた。しかもそれは、友達の従兄弟の物だった。友達の信頼を失うだけでなく、友達と従兄弟の関係までギクシャクさせてしまう!

帰宅してすぐ、別の友達に電話をし、どうにか弁償する方法はないか、相談をしてみた。

「ちょっと時間かかるけど、バックナンバー取れば大丈夫!

問い合わせてあげよっか?」

バックナンバーというシステムを初めて知ったのはその時だ。

相談した友達が女神に見える。なんて優しいお方だ!

「お願いします! お願いします!」

私は半泣きですがりつき、バックナンバーを取り寄せていただき、友達に全てを話して謝ると、マンガを弁償した。

それ以来、私は人に物を借りなくなった。いつ、同じような不注意をしてしまうか分からないし、無事に返せる自信もない。それに、あの恐怖感はそう何度も味わう類の物ではないからだ。

逆に、私が物を貸すことがあれば、理由をつけて断るか、思い切ってあげることにしている。

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