蒼唯的痛冷な瞬間【本サイト限定作品】
ダラッと
なぜ、そんなことをしたのか……。
あれは、相当衝撃的な出来事だった。
小学校低学年の頃、自宅2階の自室にて、私はソファーの上で飛びはねて遊んでいた。そう、あれはトランポリン のように。
なわとびは苦手だが、とびはねるのは好き、という、矛盾した趣味の持ち主だった。
ある日、留守番を任された私は、家でひとり、ソファートランポリンを楽しんでいた。
楽しい気分も最高潮。ソファーの背もたれ部分に立ち、天井目掛けておもいっきりジャンプ!
当時、ソファーは部屋出入口付近に置いてあった。そのため、背もたれから飛びはねた私は、扉の開いた出入口の上部に力一杯頭をぶつけてしまうことに。
背もたれから地面に着地したら絶対面白いにちがいないという期待は、すさまじい痛みでむなしく消えさる。
あそこまで頭を痛めたのは、後にも先にもこの時だけ。
その痛みは、すぐさま形となった。
地にふせ、両手で頭を抱え激痛にもだえようとした、まさにその瞬間、ボタボタと口元を伝い、服にこぼれる赤い液体。鼻の奥の違和感。
鏡で見るまでもなく、それが何なのかが分かった。鼻血。
流血したのは、体感的に、頭をぶつけてわずか2秒後のことだったと思う。本当に、すぐのことだった。
頭のいたみと、人生初の鼻血。
両手で押さえても、ちっとも止まりそうにない血。しまいには、服の袖で押さえたというのに、全く止まらないという。
保育園に通うほど幼い頃は別にして、私は子供の頃、声をあげて泣いたり、テンション高く騒いだりしない、実に感情表現の乏しい子供だったそう。
それなのに、その時ばかりはわぁっと声をあげて泣いた。
このまま死ぬのかもしれない、だれか助けて…!
あいにく家には誰もおらず、頼れる大人のアテもなく、私は混乱を極めるしかなかった。
当時住んでいた家の2階から1階まで、泣きじゃくりながらおもむろな足取りで降りる。
人生最大の恐怖。痛い中でも、頭の隅には落ち着いた自分もいたらしい。
そのあとどうやって処置をしたのか、服はいつ着替えたのか。階段を降りた後は、階段と2階の部屋に滴り落ちた血を拭き取った。それ以降の記憶はない。何をしたのか、覚えがないのだ。
あんなに血を出し服を汚したというのに、家族は、私のエセトランポリン流血事件のことをいまだに知らない。
いちばん恐ろしかったりするのは、抜け落ちた一部の記憶と、血に染まった服の行方がわからないこと
。
翌年から毎年、例年にならい学校主催の知能テスト的なものや身体検査が行われたが、特に異常はなかったので、脳は大丈夫なのだと思いたい。多分。