鮮烈な赤に酔う
∟一歩進んで、
【Haduki】
「菖蒲先輩、こんにちは」
「あ、葉月ちゃーんっ!聞いてよ聞いてよー」
東雲先輩とカフェで遭遇した日から、早2日。
季節は春の終わり。初夏へと確実に、近づいている。
今日の昼食はフレンチレストラン・セレネー。
オシャレで美味しいフレンチが、格安で食べられる学生のお財布に優しいお金持ちなこの高校内にあるレストランだ。
そして今日、目の前には珊瑚ではなく、あの美しい菖蒲先輩がいた。
「あのね。あの子はこの学校の中等部からの途中生で後輩なんだけど、
名前を呼ぶのを許した女の子はなかなかいないんだ」
「私……女として見られていないんですね、きっと……膨らむべきところはいつまでも膨らまないし……」
ちらり、と私は自分の残念な胸元を見た。
分かってる、わかってるんだけどね。
先輩は笑顔で言い放った。
「否定はしないよ」
「……普通ここってフォローするとこですよ」
「ごめんごめん!……でもね、あの子にとって、あなたは面白い存在に映ってるのよ」
「……?」
疑問符を浮かべると、先輩はフォークを弄びながら蠱惑的に笑う。
「きっと……“特別”なのよ」
にやり、と笑った先輩はピンクに近い紫の匂いがした。