渚の平凡物語

ほのぼの家族(あたし除く)

 生傷の耐えない体で、心はギリ折れずに済んで帰宅しても、学校以上にキツい現実が家で待っている。

「巴ちゃん、そっち見てくれる? あ、火は中火のままでね」
「はい、母さん」

 美人は女神なだけでなくコミュニケーション能力も高いのか。
 親父の不倫相手の子の筈なのだが、そんな気まずい空気になったことはまだない。むしろ娘のあたし以上に馴染んでるとはどういう了見だテメェ。

「あ、おかえり、渚ちゃん」
「あら、帰ってたの」

 ほわっと笑った姉はやはり死にたくなるほど美しい。

「ねぇちょっと、お味噌買ってきてくれない? お出汁作ってから気付いたのよね」
「は……?」
「やだ、母さん。わたしが行くわよ」
「ダメダメ、巴ちゃんは筋がいいから夕飯作り助かってるんだもの。渚、ちょっとそこまで行ってきてよ」
「……」

 うちの母ってこんなに料理熱心だっけ。むしろあたしが動かなければ台所に立つこともあんまなかったんだけど。だからあたし一通り料理出来るんだけど。

「母さん、こんなものかな?」
「どれどれ? うん、ちょうどいい濃さね。上手だわ」

 既にあたしが買い出しに行くのは決定なのか、二人は和気藹々。死にたくなったんですけど。

「……行ってきます」

 心の余裕がガリゴリ削られていっている気がする。
 学校ではわけのわからないやっかみで怪我をさせられ、家では娘としての立場がない。色々辛いことになっている。

 これが母だけならまだしも、仕事から帰って来る親父も。

「今日は巴が作ったのか。美味そうだな」
「やだ父さん、初めて作ったのに」

 あはは、うふふ、えへへ。
 何だこれ、あたし居なくてもこの家族成り立つんじゃね? え、腹違いの姉の方が違和感なくね?

 だんだん、ヒットポイントがゼロに近付いております。
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