渚の平凡物語
「お? 初めて見る顔だな」

 てっきり小学校と同じように女の先生だと思ったあたしは、返ってきた低い声にビビる。
 目に入ったのは、小さな背もたれのある椅子に座る男性教諭。しかも若い。
 一瞬躊躇してしまい、一歩も入ることなく閉めそうになってしまった。でも他に行くとこない。

「入れ、扉も閉めろ」
「はい」

 完璧な上下関係を口調から読み取り、あたしは素直に頷いた。怒られるのは嫌いだ。

「そこ座れ。名前は?」
「美濃です」
「みのう、な」

 うんと頷く先生に、こんな若い先生いたんだなぁと納得する。そういえば女子生徒がキャッキャしてたかもしれない。まだ若くてかっこ良い先生がいると。

「で? 何かあったか? 見たとこ怪我も病気もしてねぇだろ」
「はぁ……」

 この先生に言っちゃっていいのだろうか、と少し悩む。が、他に言える人いないしな。

「学校でも家でも孤立して、辛いです」

 正直に述べると、ぴたっと動きが止まった。

「イジメか?」
「や、イジメっていうか……」

 学校に友人がいないわけでもない。ただ周囲のプレッシャーに勝てないだけだ。あたし自身がそもそもそうなので、友人たちを責める気にはなれない。

「先日、父の浮気が発覚しまして」
「ヘヴィだな、おい」

 全くだ。

「それで、浮気相手の子供がうちに来たんですが……」
「恨みつらみを述べに?」
「いえ、家族の一員として迎え入れました」
「はー?」

 あたしにも意味がわからないのだから、あたしに疑問をぶつけないで欲しい。

「その人が何かもう、凄く女神で……」
「すげぇ言い方だな。……っあ、この前の転入生か!」

 ポンと手を打った。
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