アルガドート・サーガ

2)避けられない衝突





 あれから何日か経ち、ユラはその素性を隠しリペアの部屋で生活していた。
昼間、リペアが居ない間は現代の文字や歴史、常識を学び、夜はマドリードの部屋で古文書や文献を共に読んだ。
そうすることで、ユラの失われた部分の記憶が戻ることを願って。

「ユラさん、ここの生活にも慣れましたか?」

「そうね!お祈りの仕方やなんかはちょっと堅苦しいかなって思うけど、新鮮で楽しいわ」

ユラは微笑むと、リペアが持ってきた紅茶や焼き菓子に手をつけながらのんびりとくつろいでいた。
数日前の寂しげな面持ちは、今は影を潜めている。
彼女自身出さないように気をつけているのか。それとも、それこそが彼女の魅力ともいえるのか。

「私の時代には、こんなおいしいお菓子はなかったのよ」

ユラは口いっぱいに焼き菓子をほおばりながら、幸せそうに微笑んでいる。
そんな彼女を見て、マドリードもまた幸せそうに微笑んでいる。

「もっと食べて頂いて大丈夫ですよ。リペアが焼いたお菓子は本当においしいですよね」

「そんな、勿体無いお言葉です」

リペアは照れくさそうに微笑むと、紅茶のお代わりをもってくるために部屋を出て行った。
暫く二人は他愛もない話をしながら言葉を交わしていたが、ふとマドリードが思い出したようにティーカップをテーブルに置きユラに声をかけた。

「忘れてました!ユラさん、明日のお昼ごろなんですけれど、ちょっとお時間頂けますか?」

「なにかしら」

「実は、そろそろ怖いおじ様たちにユラさんのことがバレてしまったようなのです。そこで、私の名前の下、正式にユラさんを古の姫巫女としてご紹介出来たら、と思うのですけれど」

マドリードは、少し冗談めかして言っているが、それはとんでもないことだった。
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