アルガドート・サーガ
 翌朝、ユラはいやに早く目が覚めた。昨晩の寝つきも、けしていいとは言えなかったはずなのに、どうしてか目が覚めてしまったのだ。
まだ、隣ではリペアが寝息をたてている。起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、そろりと部屋から廊下に出る。
まだ薄暗い廊下はひんやりとしていて人気がない。

 なるべく靴音を忍ばせて、うろ覚えの道を歩みながらユラは庭園に向かう。誰ともすれ違わなかったことに安堵しつつ、明かりにぼんやりと映し出される庭園の美しさに暫し目を奪われる。

「綺麗だろ?」

不意に掛けられた声に、ユラの心臓は飛び出さんばかりに跳ね上がった。

「あ?!え、ええ!そうね!」

慌てて振り返ると、そこには昨夜マドリードに紹介されたハロルドが立っていた。
軽薄そうな笑みを浮かべているが、ユラは彼の瞳が感傷に浸っているように感じた。
ハロルドは苦笑いを浮かべたまま、庭園の入り口の柱に背を預けている。

「あなたも、散歩?」

「ま、そんなもんかな」

ハロルドは曖昧に答えると、じっとユラのことを見ている。
ユラはなんとなく居づらそうにみじろぎすると、ハロルドから目を逸らした。

「ハロルド、だっけ。あなたも、ここの人なの?」
< 9 / 13 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop