オリゾン・グリーズ
「おい、今弟のためにといったな」
「ああ言った。
お前の弟、バルツの生存のために」
「生きているのか弟は!」
「生きている。
捕虜としてだがな」
「……………っ」
驚愕に喘ぐクリストハルトの表情を眺め、ローラントはやっと意地の悪い狡猾な様子で唇を釣り上げ、笑い声を漏らした。
隙間から見える歯が、悪魔のようである。
「信じがたい未来日記は疑うのに、弟の生存という都合のいい話は信じるのか。
なにもお前という人間ばかりにそれを限定はしないが、人というのは本当にご都合主義者で面白いな」
「…、お前、出まかせか!?」
クリストハルトは憤慨を露わにした。
「いいや、笑ってすまない。
お前の弟は確かに捕虜として生きている、その証拠を提示することはできないがな」
事実だと述べる彼の口調は、壮絶な未来日記を語るのと変わらなく淡白である。