オリゾン・グリーズ
ローラントは懐からナイフを取り出すと、慣れた手つきでノエルを縛り付けた縄を切り裂いた。
「ねー思い出したようにやるの止めてくんない、悲しくなってきた」
「ああ、今思い出した」
「俺空気だー、泣いちゃいそうー」
「泣きまくって眼球が枯渇すればいいんじゃね」
「酷いよこの子!?」
ノエルは立ちあがって四肢を伸ばした。
二時間の尋問は座りっぱなしで辛かったらしく、背中の骨が音をたてている。
「じゃあひとまず俺達は退散するから、それまでに答えは出しておけよ」
「…………」
踵を返したローラントの背中に、縋りつくような弱々しい視線がまとわりついた。
弟が生きていることを、彼らは何故知っているのか。
果たして、その確証なき生存と未来日記を真に受けて、彼らに貢献することは賢いことなのか。
クロークを頭からかぶった二人の青年は、教会の祭壇の裏にある隠し扉から静かに出て行った。
…というか、最初からその扉で出入りすれば良かったんじゃなかろうか。