オリゾン・グリーズ
「ハルト、来るかなあ」
「来ないだろうな。
けっこう現実主義者って感じのやつだったし」
「でも弟くんのことは気になるよねえ」
「…………」
ローラントは、ただ茫然として街の灯りの群衆を眺めながら、気がついたように冷たい風に身を固めた。
他人の前ではあんなに無表情ないし狡猾さを決め込めるくせに、いざ身内の前となれば、その表情はあどけなさと哀しさに満たされる。
その変化の根幹はおそらく罪悪感だ。
「クリストハルトの弟のこと、よく知ってたね」
「ああ、会ったことがあるからな」
「それってシードラ帝国の捕虜として?」
「それを聞くと、とてつもなく残念でならなくなるぞ」
「…ふーん」
だからきっと、兄にもその生存は知らせないほうがよかったのかもしれない。
生きているというのはただ身体と生命だけの話で、彼が知る弟という人格はすでに死滅している、そういうのが事実だ。