オリゾン・グリーズ
騎士団参加者の出発は夜11時ちょうど、街の南にある現存の教会である。
夜中にここを出発して、夜が明けるころにはここから一番近い軍基地であるマリヤ地方に到着し、早々に訓練を始めることになっている。
戦地に立つならば睡眠に勝て、ということだろう。
中央通りの市場の明かりと賑わいは、少し外れた教会の方にも漏れてきていた。
名残惜しそうな視線でいると、背中を叩かれ、肩に重さがかかった。
「おいハルト、お前大丈夫か?」
「あ、ああ……」
数少ない騎士団の参加者である青年であった。
野太い声が耳に響いて顔をしかめたのがわかったのか、彼はすぐに肩から腕を離して遠ざかった。
「夕方は災難だったんだな。
いろいろ大変なことが起きたらしいじゃねえか」
あれを『いろいろ大変なこと』と片付けてしまうならば、おそらく詳しい話は聞いてはいないのだろう。
当人がなんでもないような顔をしているから、大した話ではないと決めつけて右から左へ話が抜けてしまったのだ。